箒の知識

  • ホウキモロコシ

イネ科モロコシ属の一年草。江戸時代のころから主に東日本で、室内用の座敷箒の材料として栽培されていました。穂先がしなやかでわずかに油分を含むのが特徴です。そのため、ホウキモロコシで作られた箒で畳の上を掃くと畳につやを与えることができるとされています。もともと国内に自生していた植物ではなく国外から持ち込まれたものだといわれていますが、いつごろどこからどのようにして伝わったのか、はっきりとしたことはわかっていません。かつては茨城県一帯がホウキモロコシの一大産地として著名でした。中津でも箒の製造が拡大するにつれて地元産のホウキモロコシだけでは需要が賄いきれなくなり、茨城県をはじめとする各地から仕入れていました。

箒作りに使用するホウキモロコシは初夏に種蒔きをし、盛夏に収穫されます。収穫したホウキモロコシの扱い方は産地によって異なりますが、中津では脱穀してから穂先をムシロなどで覆って天日で干し、室内に保存します。

国内での箒作りの衰退とともにホウキモロコシの栽培も減り、現在では国産のホウキモロコシは一般に流通することのほとんどない稀少な作物です。

  • 箒の産地

もともと箒は農家が農閑期の副業で作っていたと考えられており、明治以降、都市部の近代化にともなって、関東地方を中心とする各地に専業の箒製造業者が現れました。群馬県の川場や栃木県の鹿沼、埼玉県の上福岡、東京都の練馬といった地域が大きな産地として成長し、神奈川県の愛甲郡中津村(現在の愛川町中津)もそのひとつでした。

  • 箒の製造

箒作りではホウキモロコシの選別作業が最も重要な仕事とされており、かつては経験を積んだ職人の親方の仕事でした。それから選別されたホウキモロコシを束(マルキ)にし、杭(クイボー)を使って糸や針金で編みこんでいきます。最後に穂先を糸で補強する仕上げ作業(アミ、トジ)を行って完成です。

  • 箒にまつわる習俗

古来、箒は生活に欠かせない道具である一方で、掃除の道具であることから連想される「払う・清める」といった意味合いをもつ、呪術的な道具であるともされてきました。箒に乗る魔女のイメージをはじめとして、国内でもあまり歓迎されない来客を早く帰らせるために箒を逆さまにして置いておくというおまじないや、掃き出す道具であるということから妊婦さんのお腹を箒でなでると安産になるとされたり、魔を払うというイメージから箒を亡くなった人の横に置いたり葬列の先頭を歩く人が掲げたりと、地域や時代によってさまざまな使われ方がされてきました。

どのような道具であっても、その道具だけが単体で存在するわけではなく、必ずその道具にまつわる人の生活や社会、文化が一緒に存在します。現代ではかつての箒の呪術的イメージはすでに薄れていっていますが、箒が使われ続けることでまた箒にまつわる新しい文化、新しい意味合いが生まれ、育っていくかもしれません。